折紙セラピー - 2/2

 いつも年齢相応以上に堂々とした態度のバーナビーに、ちいさなこどものような部分があることに、イワンが気づいたのはいつだったろうか。
 たったの4歳で最愛の両親の死を目撃して、あまりに早くに大人にならなければいけなかったバーナビーは、自分のこどもの部分をうまく成長させてやることができなかった。だから今も時折、彼のかたい殻の奥から、おびえたようなこどもの顔がのぞく。
 虎徹はとっくに気づいているようだし、一児の父でもある彼が、バーナビーをこども時代にできなかった分まで甘えさせてやりたがっているのは、イワンにもよくわかる。でもバーナビーにとって虎徹はバディで、対等であるべき相手だから、簡単によりかかることを良しとしない。虎徹が甘えさせてやろうとすればするほど、バーナビーはつんと虚勢を張ってしまう。
 もちろん、最終的にバーナビーをいちばん安らがせてやれるのも虎徹に違いないのだが、そこに行きつくまでが長すぎる。
 カリーナやパオリンはバーナビーには庇護すべき対象だし、スカイハイはMVPを争う好敵手。ファイヤーエンブレムやロックバイソンは大人の距離感をほどよく保って、踏み込まない優しさのほうを選んでいる。
 攻撃能力を持たないNEXTで、MVPとは無縁の見切れ職人、そして年下とはいえアカデミーの先輩、という立ち位置が、バーナビーに壁を作る必要を感じさせないのか、それともイワン特有の距離の取り方が彼の波長にうまく合うのか、ともかくいつのまにか、バーナビーを甘やかしてやるのはイワンの役目になっていた。
 アカデミー時代、エドワード以外の友人をつくれず孤立していた自分が、と考えると少しおかしくもあるのだけれど。
 すやすやと寝息をたてはじめたバーナビーの頭を、起こさないようにそっと、イワンは自分の膝の上に移動させる。邪魔そうな眼鏡を外してやって、顔を近づけてよくよく観察すれば、目の下にうっすらと陰りがあった。
「がんばりすぎなんですよ、バーナビーさんは」
 ねえ? と顔をあげて言う。一瞬の間があって、扉の陰から苦笑いを浮かべた虎徹が現れた。
「いつも悪いな、折紙」
「いえ。僕で役に立つならうれしいです」
 足音をたてないように近づいてきた虎徹が、イワンの膝の上にあるバーナビーの頭をくしゃりと撫でる。んん、と声を立てたバーナビーが、眠ったまま唇を笑みの形に変えた。
「かぁわいいなあ、バニーちゃんは。オジサンにももっとかわいい顔見せてくれりゃあいいのに」
「僕もそう思いますけど、でもバーナビーさんは、タイガーさんには『かっこいい』って言ってもらいたいんだと思いますよ」
「知ってるけどなぁー」
 バーナビーを起こさないように、ぼそぼそと低めた声で会話する。眠るバーナビーを見つめる虎徹の目はどこまでも甘い。そんな甘いまなざしを、いつかは起きた状態で受け止められるようになればいいとイワンは思った。以前に虎徹に聞いたところでは、どちらかの部屋で二人きりのときすら、この意地っ張りのうさぎさんはなかなか甘い雰囲気をつくらせてはくれないらしい。2ラウンド目に入るあたりでやっとかなー、というのが虎徹の証言だ。
 僕だったら、キースさんにあんなに甘く見つめられたら、すぐにとろとろにとろけてしまうのにな。
 甘え下手だったイワンを懲りずに甘やかして甘やかして、すっかり甘え上手に変えてしまった恋人を思って、イワンはふんわりと笑った。
「ま、ゆっくりやるわ」
「はい。そうしてあげてください」
 押す側と押される側がはっきりしていた自分たちに比べて、このバディの関係は複雑で、一筋縄でいかないのはわかっている。それでも時間が少しずつ、色々なものを溶かしてくれるだろう。
「折紙はすっかりバニーちゃんの保護者だなー」
 笑ってイワンの頭をぽんと叩いた虎徹が、よっこいせと実に親父くさい掛け声をあげて腰を伸ばした。ちょっと外出てくるわ、と告げて、さっき入ってきたばかりの扉へ向かう。起きたらメールしますね、とその背中にイワンは声をかけた。
 バーナビーは相変わらず膝の上で寝息を立てている。
 虎徹にすっかり乱されてしまった髪を丁寧に整えてやりながら、イワンはバーナビーの中のちいさなこどもに、そっと囁きかけた。
 We love you。
 みんなあなたを、あいしてるよ。

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