天使の素顔 - 1/2

 ヒーローには、スーツ着用のときと素顔のときでキャラクターが変わるタイプと、どちらもあまり変わらないタイプがいる、と思う。

 前者の代表が僕こと折紙サイクロン=イワン・カレリンと、ブルーローズをやっているカリーナ・ライルだろう。ていうか僕はたぶん満場一致で「キャラ変わるタイプ」筆頭だ。タイガーさんあたりに「おまえホントにヒーロースーツんときのキャラと違うよな~」と言われて(高確率で同時に頭ぐしゃぐしゃってやられて)周囲の他のヒーローたちがうんうんってうなずくのはすでによくある光景だし、自分でも人格変わってるよなあって自覚はある。
 どうしてだか僕がやれっこないと思っていたヒーローをやることになったとき、こんなウジウジした僕じゃちっともヒーローらしくないと思った。あと会社の人が用意してくれた和風スーツにテンションあがりまくった。こんなカッコイイスーツに似合う中身にならなきゃ! と、今思うとちょっとはっちゃけちゃって、あの「折紙サイクロン」が生まれた。幸い会社の人たちには大好評だったし、見切れ職人という独特なスタンスもあって、街の人にもそれなりに受け入れられた。……かわいいとかいじられキャラとか言われるのはちょっと微妙なんだけど。ニンジャはかわいいんじゃなくてかっこいいんでござるよ! シュッシュ! 
 ブルーローズのあの高飛車な女王様キャラも、会社に言われて彼女が演じているキャラクターで、素顔のカリーナはちょっと気が強いけどごく普通の、お洒落や美味しいものや恋バナの好きな、優しい女の子だ。ブルーローズのときだって、油断するとときどき(特にタイガーさんがらみのとき)地のカリーナが顔をのぞかせる。
 そのタイガーさんや、ロックバイソンさん、ファイヤーエンブレムさんのベテラン陣は、あまりオンオフで変化のない人たちだ。ヒーロー姿のほうが好戦的になる印象はあるけど、アドレナリン出まくりな現場にいるんだから当然といえば当然だ。ドラゴンキッドもあまり変わらないけど、素顔のホァン・パオリンのほうがちょっと子供っぽいし、最近はちょっと女の子っぽい。彼女は真面目だから、ドラゴンキッドのときにはちゃんと仕事しなきゃって気持ちが強くて、大人びて見えるのかもしれない。
 唯一の顔出しヒーローであるバーナビーさんは、僕は24時間いつでもどこでもヒーローのバーナビー・ブルックス・Jrですよって振舞いをしてるけど、あれは外向けの顔だって僕たちヒーローはもう知っている。デビューしたての頃は僕らやヒーローTVのスタッフといった内輪の人間しかいない場面でも変わらない態度だったけど(ていうかあの頃のバーナビーさんはそのメンバーを「内輪」とは思っていなかっただろう)、最近はけっこうグダグダだ。そういう意味では彼は僕やカリーナと同じカテゴリの人だ。
 そして最後に、スカイハイさん。
 彼ほどヒーロー姿とそうでないときのギャップのないヒーローはいない、とみんなは言う。タイガーさんはよく「おまえマジで中身もスカイハイなんだなァ」と呆れたように笑っているし、ドラゴンキッドが「スカイハイってオフのときもヒーローなんだね! すごいや!」って目をキラキラさせて言うのを見たこともある。飲み会のときにひとりでソフトドリンクを頼んで、パトロールの時間だからと先に帰る彼のことを、ファイヤーエンブレムさんやロックバイソンさんは、骨の髄までヒーローだと笑う。
 僕だってそう思っていた。そして、そんなスカイハイさんこそがヒーローのなかのヒーローだ、と尊敬していた。

 でも。
 もしかして、そうじゃないんじゃないかと、最近気付いたのだ。
 エドワードの事件や、ジェイクの事件があってから、僕は擬態という能力をもっと生かすため、心理学なども勉強して、人間観察に一段と力を入れることにした。特に、擬態させてもらう可能性の高いヒーローのみんなのことは、スーツ姿もオフ姿も完璧な演技ができるように、普段から意識してよく見るようにしていた。
 それでたぶん、僕だけが気づいた。
 まるでスカイハイそのままの、キース・グッドマンさん――じゃ、ない。
 みんなが見ているキースさんは、ほんとうは、「スーツを脱いだスカイハイ」というキャラクターだった。オフのときもヒーロー、という人物を、キースさんは演じている。少なくとも僕らと一緒にいる時間はずっとそうだし、おそらくはヒーローTVやポセイドンラインの関係者の前でも、そして、もしかしたら、一人でいる時間でさえも。
 バーナビーさんとも少し似ているけれど、バーナビーさんはちゃんとオンオフを使い分けている。けどキースさんには「オフ」がない。オンでもオフでも同じなのではなくて、24時間休みなく「オン」のままなのだ。
 ただ、誰も見ていないとキースさんが思っているとき、ほんの少しだけ、仮面がはがれるときがある。明るい空色の瞳のきらめきが、ほんの一瞬、かげるときがあるのだ。そこに現れるのは、突き放したような冷めたまなざし。最初は僕の勘違いだと思った。光線の具合かなにかでそんな表情に見えただけだと。でも数ヶ月かけて観察してきた結果、勘違いじゃないという確信を持つに至った。

 少し前までの僕だったら、そんな結論を受け入れることはできなかったろう。キースさんはスカイハイそのものだ、100%ヒーローなんだと決めつけて、それを疑うことなど考えもしなかったはずだ。
 自分がそんなヒーロー像とは程遠いくせに、いやだからこそか、きらきらした綺麗なものだけを押しつけて。
 でも僕はもう知っている。僕らはみんな欠点だらけの生身の身体を、悩んで迷って苦しむ心をヒーロースーツに包み隠して、血反吐を吐きながらヒーローをやっているんだ。
 きっと、彼も。

 だから僕はずっと知りたかった。
 みんなが愛するスカイハイではない。僕らの仲間のキース・グッドマンでもない。

 誰も知らない、もうひとりの彼は、どこにいるの?

 ――それを知る機会は、ひょんなことから訪れた。

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