対話

……『助けてくれて、ありがとう』。

アルムに言われた。……懐かしかったな。
ああ……。懐かしいね。
カバネ。
なんだ。
ありがとう。
…………。言わせたかったわけじゃない。
はは、知ってる。僕が言いたいだけだよ。
ありがとう、僕を助けてくれて。
…………。
ありがとう。僕の呪いを解いてくれて。
…………。死ねなくなったがな。
それでも……、『後悔しない』って、『大丈夫だ』って言ってくれて、……ありがとう。
…………。
嘘、だったな。
…………。
後悔したよ。
そうだね。
耐えられなかった。……お前を恨んだ。
うん。
知っているよ、カバネ。千年は、あまりにも長すぎたから……。
人の気持ちは、変わるものだよね。あたりまえのことだよ。
でも、……でもね。
あのときくれた、きみの言葉が、結果的に嘘になってしまっても。
僕を助けたことを、きみが、後悔していても。
嬉しかったんだ。あのとき。僕は、本当に……。
それは、嘘じゃないんだ。
この先も、永遠に、嘘にはならないんだ。
きみだって、嘘をついたわけじゃない。
いまの気持ちで、過去に遡って、過去の自分の言葉まで、嘘にしなくていいんだ。
……そうだな。
クオン。
うん。
おまえは?
え?
千年は長すぎると、おまえが言ったんだろう。
……うん……。
おまえが天子だったのは、おまえ自身の罪じゃない。俺がおまえを助けなければ、おまえもいずれ死ぬことはできた。
それは……、それは違うよ、カバネ。
なりたくて天子になったわけじゃない、でも、僕のせいで人が死ぬことは、ほんとうに辛かった。呪術兵器のまま、人を殺す道具のままでいるくらいなら、無害な幽霊みたいに、なにもしないで生きている方が、ずっといい。
……おまえは、いつもそれだ。
え?
比較が悪すぎる。なぜ、平凡に生きて平凡に死ぬ人生と比べない。
カバネ……。……僕は……。
つらかったと、言えばいい。おまえも。
……言えないよ……。
俺には言わせたくせに。
自分で言ったんじゃないか。
そうだな。じゃあ、自分で言ってみろよ。
いやだ……。
なぜ。
泣いてしまうよ。
泣けばいい。
カバネ……。
おまえが泣いても、もう、誰も死なない。
おまえが怒っても、俺もコノエも、血を吐いてのたうち回ったりしない。
…………。
千年以上経つのに、まだわからないのか。
わかってるよ。わかってる。でも。だって……。
なんだ。
……っ、ずっと、……我慢、してたから……。止まらなくなりそう……。
止めなくていいだろ。
…………、うん……。ねえ、カバネ、……頼みがあるんだけど……。
なんだ。
ここ、しばらく、貸して。
…………。
だめかな。
いや。
汚しちゃうと思うけど。
俺は別に。
……コノエに謝っとく。
そうしてくれ。……ほら、来い。
…………。
クオン。
なぁに。
おまえ、……あったかいな。
……っ、ふふ、あははは……。
なんだ。
千年前に、同じこと言ったよ。
そうだったか。
うん。
……ねえ、カバネ……。
うん?
大好きだよ。
…………ああ。