在りし日

 ラジオから届く声は今日も溌剌と、亡き友人の思い出を語っている。
『……だったんだ。後から聞いたら、彼はいつも、――』
 アルムが語るリーベルの、具体的なエピソードは少ない。二人がともに過ごした日々は濃密なものであったが時間としては短かったし、緊迫した状況下だったのだから当然だろう。それでもアルムはたびたびリーベルの話をした。その中には、リーベルの死後に彼の周囲の人間に聞いたのだろう話も多い。たとえば、子供の頃の他愛ない冒険の話。たとえば、リベリオンという抵抗組織を立ち上げたいきさつ。アルムの知らないところで交わされていた、クヴァルとリーベルの会話――。
 懐かしげに、愉快そうに、意外そうに、または寂しげに。声にさまざまな感情を纏わせながら、アルムはいなくなってしまった友を、今日も語る。
「ふふ」
 ラジオの近くの定位置に陣取ったクオンが、楽しげな笑い声をこぼした。
「アルムはすごいな。いつのまにか、リーベルが昔からの友人だったみたいに思えてきたよ。実際は、ほんの少し言葉を交わしただけなのにね」
「わかるッス。スゲー知ってる相手みたいな感じするんスよね」
「そうだね。そしてきっと、これがアルムの願いなんだ。リーベルはいなくなってしまったけれど、アルムが語ってくれる限り、彼の存在が真に消滅することはない」
 感慨深げに語ったクオンは、ふと視線を床に落とした。
 それから意を決したように立ち上がると、少し離れた場所で揺り椅子に背を預けていたカバネの前に立つ。
「ねえ、カバネ。お願いがあるんだ」
「……なんだ」
「ゴウトの話を聞かせてくれないかい」
「…………」
「ナーヴに滅ぼされてからのゴウトしか、僕は知らない」
 気だるげな仕草でクオンを見上げたカバネは、眉間に深く皺を刻んだ。その表情や眼光の鋭さにクオンが怯むことはない。それがクオンを案じる顔だと、とうに知っているからだ。
「……俺とコノエが覚えている。それで十分だ。――おまえが背負う必要はない」
「カバネ、きみが、きみの優しさからそう言ってくれているんだと知っているよ。ゴウトは僕の滅ぼした国だから……」
 包帯を巻きつけた右手を、クオンはそっと自分の胸に置く。
「背負うなんてできないよ。でも、僕にも分けて欲しいんだ。だって、きみたちが愛する国だもの。アルムがリーベルを僕の友人にしてくれたように、ゴウトを好きになりたいんだ。悲しい最後だけ覚えておくより、そのほうがいい」
 カバネに語りかけるクオンの言葉は、しなやかで強い。沈黙がしばらく続き、根負けしたのはカバネだった。
「……長くなるぞ」
 ため息とともに吐き出された言葉に、クオンは花開くように微笑んだ。
「何千夜だって聞かせておくれよ。時間なら、たくさんあるのだもの」