「さて！ ここで視聴者の皆さんにお知らせです。一織！」
安定の司会進行でスタジオを沸かせていた三月が、一声で空気を切り替える。兄の振りを受けて、一織は正面のカメラに目を合わせた。
「はい。――このたび私、和泉一織が『うさみみフレンズパーク』特別サポーターに就任いたしましたことをご報告します」
「おめでとうございマース！」
「いおりんおめでと～」
「おめでとう一織君、がんばって！」
待ち構えていたメンバーの拍手と喝采を受けて、照れくさそうに一織はぺこりと一礼する。
「ありがとうございます。……来週の『キミと愛なNight!』の中で、就任式の模様と、パーク内のおすすめスポット紹介をご紹介しますので、ぜひご覧下さいね。今後、パーク内イベントや限定グッズなども予定しています。詳しくは公式サイトにて」
放映でテロップが入るあたりを指差しながら淀みなくお知らせを言い終えた一織を、待ってましたとばかりに隣に座る陸がつついた。
「一織、一織！ パーク楽しかった？」
「ええ、とても」
色白の頬をぽっと桜色に染めて、一織がはにかむように笑う。
「パーク中、すみからすみまで、とても可愛いんですよ。スタッフの皆さんの気遣いも行き届いた、夢のような空間です」
おお……！ という空気が、スタジオを支配した。やばい！ と呻いて、三月が大袈裟に身悶えする。
「オレの弟が今日も世界一可愛い～！」
「兄さんも愛らしいですよ」
「うっさいわ！ アラサーに可愛い言うな！」
「はーい、ブラコン漫才そのへんにしといてくださーい」
和泉兄弟のやりとりと大和の投げやりな茶々に笑いが起きた。長い脚を優雅に組み替えたナギが、上段の椅子から身を屈めて一織に問いかける。
「イオリは可愛らしいものがお好きなことを隠さなくなりましたね。なにか心境の変化でも？」
「あ、それ俺も聞きたかった～。いおりん、うさことかにゃあことか大好きなん、ずーっと隠してたじゃん？ 素直になれよー、つっても、『何のことですか』とかって」
「番組で話すことですか？」
「いーじゃん、兄ちゃんも聞きたいぜ一織！ ファンのみんなも気になってると思うし」
「兄さんがそう仰るなら。そんな、たいした話ではないんですが……。先日、以前Next Re:valeさんの企画でやった『Rabbitube』動画を久々に見直してみたんです」
「やったやった。あれな～！」
「懐かしいね」
「イチは開封動画だっけ」
「はい。それでその……当時の私は、私の持ち味をきちんと出していたつもりだったんですが、今見ると、」
こほん、と咳払いをし、先日成人を迎えた青年は恥じらうように目を伏せる。
「…………ダダ漏れだな、と…………」
あ――――――。
という顔に全員がなり、何人かは実際に口を出した。
小さなマスコットたちを優しく扱う手つきや、シークレットを引き当てたときの喜びようは、当時から可愛らしいとファンに好評だった。
今頃か、という突っ込みは口にしない程度には、IDOLiSH7のメンバーは最年少に甘い。
「ついているコメントを読んでも、皆さん察してらっしゃるんですよね……。それでも変わらず応援していただけていましたし、だったら隠す意味がないなと」
「隠さなくなってから、こういうお仕事も増えたしね！」
両手を耳に見立ててぴょんと動かしながら、陸が笑いかける。一織がきゅっと唇を結んで、まじまじとその様子を凝視した。
「「『可愛い人だな……』」」
「四葉さん二階堂さん、聞こえていますからね」
「否定しないあたりオープンになったなイチ」
「バレバレなのにごまかすイオリも愛らしかったですけどね」
「僕はなかなか気づかなくて申し訳なかったな……」
「そーちゃんはもーそのまんまでいろ」
「あはは、オレ可愛い？ そういう一織が可愛いけどね」
「よく言った陸！ オレの弟が24時間可愛い！ んじゃあ次のお知らせ行くぞ～」
――この日及び翌週の『キミと愛なNight』は、一織担の間で神回中の神回として長く語り継がれたという。