印象的な誕生日? そうだな。祝ってもらうのは全部、どの年も、どのお祝いも、すっげえ嬉しいんだけどさ!
でも、うん、やっぱあれかなぁ……。ちょっと長くなるけど、聞いてくれる?
寮だとさ、食事当番とかも決めてたけど、料理作んのってやっぱオレが多かったんだよな。特技って言えるくらいにはできたし、オレ自身料理は好きだから、全然苦じゃなかった。あと子供ら……はは、未だに子供らって言っちまう。あいつら甘いもん好きじゃん。ホットケーキとか焼き菓子とか、簡単なもんばっかだけど、作ってやると喜んで食ってくれんの、疲れが吹っ飛ぶくらい楽しかった。
ほかの家事、洗濯とか掃除とかもさ。一織や壮五はキチッとしてたけど、あんま得意じゃないやつも多かったし、できるけどやる気なかったり……うん、これは大和さんな。オフにオレが仕切ってやらせることとか、多かったわけ。
そういう感じで共同生活してるとさ、あいつらみんな素直でかわいいから、ことある毎に褒めてくれるし、お礼言われたり、労ってくれたりすんだよな。美味いって言われりゃ嬉しいし、ありがとうって笑ってくれたらよっしゃ! これからも任せろ! って思う。
普段からそんなんだからさ、これが誕生日ともなると、みんなここぞとばかりに言ってくれるわけ。いつもありがとう、って、とびっきりの笑顔で。
嬉しいし、報われるなって思うんだよ。好きでやってても、疲れないわけじゃないもん。
……けどさ。たまに、うん、たまーになんだけど、……オレの価値、そんだけ? みたいな……。凹んでると、そういう気持ちに、なることが、あってさ。
ちっちゃい頃にゼロに会って、オレもこうなりたいって憧れた。ゼロみたいに、みんなを笑顔にするアイドルになりたかった。
喜ばせたい。笑顔にしたい。そういう気持ち。でもそれだけじゃないんだ。それなら、オレの得意なこと、それこそ菓子作りとか、料理とかでさ、周りにいるヤツ喜ばせりゃあいいじゃん。でもオレはそれだけじゃイヤだった。満足できなかったんだ。もっともっとたくさんの人を相手にして、ライブのステージとか、きらきらした場所に立ってさ、オレの、オレにしかない、とびっきりのなにかで、みんなを笑顔にしたい――そういうことのできる、すげえ奴になりたい。オレってすごいぞって、自信持ちたい。
オレがゼロに憧れたみたいに、みんなに憧れられたかった。
オレが、ゼロの歌やダンスに魅了されたみたいに、オレに魅了されてほしかった。
物凄い熱量の、好きって気持ち。それを受け止めて、何倍にもして、皆に返す。ゼロはそういうアイドルだった。とびきりの、最高の、スターだった。
そういう風に、オレもなりたかった。そういう誰かの支えになるんじゃなく、オレ自身がさ。
……その年の誕生日も、寮で日付変わってすぐ祝ってもらったときは、そんな感じで。おめでとうとありがとうをたくさん貰って、オレからもありがとうって言ってさ。そのあと、ちょうどその日に愛なNightの収録があったんだ。まあ、予想はするじゃん。恒例で一織にも大和さんにも仕掛けたし、オレも祝って貰うんだろうな~って、まあ構えてはいた。
予定してた内容が終わって、エンディングってとこで一織が立って「さて、」って言うから、「キター!」って思うじゃん。で、ナギと大和さんに目隠しされて。なんだなんだーって、ワクワクしながらリアクションして、頭のすみっこで撮れ高とか考えてたりもして。
けど、あんなん……。予想できないよ。
一面オレンジでさ。あいつらも、スタッフさんも、観覧に来てくれてたファンの子も、みいんな。みんなどこかにオレンジ着けてんの。観覧席に、オレの名前書いたうちわ、さっきまでなかったやつ、めちゃめちゃ並んでんの。俺の誕生日にって贈ってくれたファンレターやプレゼントも、スタジオにきれいに飾られてて……。
拍手と、おめでとうの言葉を貰って、それからモニターに映像が映った。
何年前だっけ? あの回。覚えててくれる人いるかな。ホント、すごかったんだ。
例えば、コンサートに来てくれたオレのファンの子が、オレンジの服着てグッズ持って記念撮影してるとこの映像。
例えば、オレのグッズを集めて飾ってる、部屋の棚の写真。
バラエティ番組の推し活特集コーナー、街頭インタビューで、オレのファンって子が喋ってる映像。
オレの出た番組の感想を友達と話してくれてる、ラビチャのスクショ。
ライブの客席で、オレのうちわ持ってくれてる子が、オレのファンサを受け取ったときの表情。
映画で、オレの役が良かったって、泣いてくれた人……。
オレへ、アイドルの和泉三月へ向けてくれてる、たくさんの〝好き〟の気持ちを、ぎゅっと集めて、花束にしたみたいな、そういう映像だった。
オレにナイショで、どうやってあんなに集めたのか、未だに知らない。
オレ、もうさ、恥ずかしいけど、途中からぐっちゃぐちゃに泣いちゃって……それも全部撮られて放送されて、マジほんっと恥ずかしいけど、でも……。
最高に幸せだった。
あの企画、あいつらみんなで決めたんだって。おめでとうと、大好きを、ファンのみんなから届けてもらおうって。それが一番、オレが喜ぶことだからって。
おっさんもナギも、めちゃくちゃドヤ顔しやがってさぁ……。
陸も壮五はもらい泣きしてるし。環はニッコニコだし。
そうだ、あのとき、一織がちょっとふくれっ面してたんだよ。あとで聞いたら、私だって兄さんのファンです、一番最初にファンになったんですから、だって。オレの弟、ほんと世界一かわいい。
……ゼロに手が届いたなんて、未だにちっとも思えないけどさ。周りにはすげえヤツばっかりで、焦ったり、落ち込んだり、ため息つく日も、やっぱりあるんだけど。
でも、オレのこと好きでいてくれる人がいるんだ。アイドルのオレが、誰かを元気にしたり、幸せにしたり、できてる。オレに憧れてくれる人がいる。
自惚れてもいいよなって、思えるようになった。
オレさ、いつかゼロにもう一度会えたら、大好きだって伝えたかった。伝えて、喜んで欲しかった。オレがゼロに幸せを貰ったことを信じて欲しかった。
だからオレも信じるんだ。
オレはアイドルで、アイドルのオレは、誰かを幸せにしてるんだって。
あの日のゼロみたいな存在に、オレもなれてるんだって。
オレを好きでいてくれるみんな、オレを愛してくれるみんな。
本当に、本当にありがとう。好きでいてくれて嬉しい。愛してくれて嬉しいよ。オレもみんなが大好きだ、愛してるぜ!
これからも、ずっと全力で走ってくから。オレのままのオレを、ありったけ見せてくから、ついてきてくれよな……!
[20xx年 IDOLiSH7ファンクラブ会報誌 和泉三月誕生日特集号より]