終わらない日々をきみと

 観客席はすでに熱気に包まれて、袖からもきらめくライトが見えている。
「一織P!」
 ひそめた、けれども興奮を隠せない声音で環が呼んで、それを合図にするように全員が一織のもとに集まった。
 いちめんに広がるサイリウムの海と同じくらい、いやそれ以上の煌めきを宿して、六対の瞳が一織を見つめる。たしかな信頼と、期待のまなざし。
 なんて幸福なんだろう。
 こみ上げる喜びを自信に満ちた笑みに変え、一織は全員の顔を見渡した。
「逢坂さん。新曲の反響素晴らしいですよ。私たちらしい最高の楽曲をありがとうございます」
「嬉しいな。今日のお客さんにも喜んでもらおうね」
「ええ。四葉さん。新作の振り付け、SNSでも大評判です。ステージでも暴れてくださいね」
「へへん。今日も盛り上げてやんよ」
「ぜひ。六弥さん。美しいあなたに客席は皆とりこです。今日も思い切り悲鳴を上げさせて」
「イエース! とびきりハッピーなひとときにエスコートいたしましょう! イオリ、アー・ユー・ハッピー?」
「オフコース。兄さん。兄さんの笑顔はステージの太陽です。このメンバーをまとめられるのは兄さんしかいません」
「おう! 任せとけ!」
「お任せします。二階堂さん。頼りにしています、リーダー。どんな時もあなたが支えてくれると、みんな信じています」
「オッケー、お兄さんもみんなのこと信じてるよ」
「はい。――七瀬さん。あなたの歌は唯一無二です。歌ってください。私たちのために、この会場のみんなのために」
「うん。一織。オレ、歌うよ」
 しっかりと頷き、音量を上げた会場BGMに負けないよう、一織は声を張る。
 開演まで、もうあとほんのわずかだ。
「みなさん。IDOLiSH7は今日も最高のアイドルです。なんの不安もありません。何が起きたって私たち七人なら大丈夫」
 力強い頷きが、短く応じる声が、いくつも返ってくる。
 私のIDOLiSH7。
 武器になり、盾になって、一織が守り抜いた、たったひとつの至宝。
 終わらせたりしない。
 毎回の誓いを胸に、隣を見やる。よっしゃ、と声を張った大和に合わせて、七つのこぶしが円を作った。
「うちの有能プロデューサーの言う通り、俺達は最高だ。聞こえるよな、お客さんもみんな俺達を待ってる。やって来たこと全部出し切って、最終公演、誰よりも楽しんでやろうぜ! ――行くぞ!」
「おおっ!」
 声を合わせ、手を高く突き上げる。背中を叩き合い、手のひらを打ち合わせ、笑顔をかわし、立ち位置へと素早く走り込む。
 満場の観客席から、すさまじい圧がのしかかるのを感じる。今か今かと待ち受ける、それは期待で、信頼で、愛情だ。
 身が震えるほどの恐怖と、気の遠くなるほどの歓喜が全身を痺れさせる。
 まばゆいライトが全身を照らし、伸びやかな陸の歌声が、一瞬で会場全体を掴み取った。
 短い沈黙と、雷鳴のような歓声。
 さあ。
 行こう。
 高揚する心のまま、一織はステップを踏んだ。軽やかにターンして、色とりどりの光へと笑う。
 この瞬間を終わらせたりしない。
 いつか破られる誓いだと知っている。それでも、笑って、踊って、歌って、愛して、走り抜く。
 きっとその時間を、永遠と呼ぶのだから。