『Q3.魅力的だなと思うのは、どんな女の子ですか?
A3.明るくて、好きなことに一生懸命で、転んでもへこたれない子かな。いつも目がキラキラしてて、オレがへこんでても笑顔で元気づけてくれる子!(七瀬陸)』
雑誌のアンケート回答に目を通しながら、一織はかたちの良い眉をきゅっとひそめた。その顔のまま隣を見やって、七瀬さん、と口を開く。
「3番の回答ですけど」
「え、なにか問題あった?」
「七瀬さんのキャラクターにも合いますし、悪くないと思いますが、言い回しがちょっと……。特定の個人のことを答えているように読み取られる可能性があります。――というか」
眉間の皺を一段深めて、断言する。
「特定の個人のことですよね、これ」
「あ、わかっちゃった?」
あっけからんと答える陸を睨みつけて、一織は深いため息をついた。
「わかりますよ、マネージャーでしょう……。彼女のパーソナリティは一般に知られてはいませんから、読者が思い当たるとは限りませんけど」
「だって『魅力的な女の子』って言われたらマネージャーしか浮かんでこなくない?」
「それは、まあ、理解はできますけど……。こういうものは、ファンが読んでどう感じるかも想定して」
「うーん、それなんだけど、ファン向けの質問だったら『女の子』って範囲狭くない? オレたちのファンって、女の子だけじゃないよな」
無邪気に首を傾げながら言い出した陸の言葉に、一織はぱちりと瞬きをした。
「確かに若い女の子が多いけどさ、ちっちゃい子、男の人もいるし、お母さんくらいの年齢の人もいるじゃん。女の子のファンだけに向けて答えるのもなんかちがくない? あ、女の人はどんな歳でも『女の子』って言うほうがいいのかな?」
「いえ、そこは人それぞれでしょうけど……、確かにそうですね。メインターゲット層に向けた言葉になりがちですが、言い換えれば激戦区でもありますし、もっと幅広い層に向けた発信が……」
「『魅力的な男の人』ならさ、面倒見が良い兄貴肌の人! とか、プロ意識が高くて自分に厳しい人! とか言うし。『女の人』なら、そうだな、言葉は厳しくても愛情たっぷりの人! とかさ」
思わず分析モードに入り込む一織をよそに、陸は楽しげに、誰かの顔が浮かぶような『魅力』を並べていく。
「――でさ、『魅力的な男の子』なら」
「ひゃあっ!?」
いたずらっぽく瞳をきらめかせた陸が、勢いよく一織の首に腕を回して引き寄せた。悲鳴を上げた一織の耳元にわざとらしく唇を近づけて、
「『意地っ張りで、泣き虫で、素直じゃないところがかわいいやつ!』」
特定されちゃうかな? スキャンダル? なんて笑うものだから。
耳を庇ってとびのいた一織は、真っ赤な顔のまま、
「そんな人、あなたのまわりにいませんから!」
なんて、涙目で叫ぶ羽目に陥るのだった。
その後、無事回収された陸のアンケート用紙に何が書かれていたのかは、雑誌発売までのお楽しみ。