マネージメントに関わっている特権と思うべきか弊害と思うべきか、わからなくなるのはこんなときだ。
メンバーよりいち早く手にした資料には空欄がある。マルチカラーの商品のCMであればそれぞれの担当色はほぼ自明だが、今回はヘアカラー。同系の色では映えないし、「いつもと違う自分」というコンセプトにもそぐわないだろう。
「あなたの案は? マネージャー」
「そうですね、やっぱりユニットごとのカラー交換が、ファンの皆さんも納得しやすいかなとは思うんですけど……、ただ、今回は限定カラーがありますので、そのうちひとつはセンターの陸さんに使っていただく方がいいかとも思いますし」
真剣に資料とにらめっこをする彼女に、安易な公私混同など言い出せるわけがない。頭に入れた企画コンセプトをよく吟味して、一織は何度目かの深呼吸をする。大丈夫。私情なんてひとつも挟まなくても、これが正解だ。
「そうですね、では――」
よどみなく提案を述べながら、一織はそっと、提案書のラフスケッチに視線を落とした。
メンバーそれぞれの髪色を引き立てる色合わせの提案。その中のひとつに、どうしたって視線が行ってしまう。
一織の暗色の髪に差された鮮やかな色に目を円くして、それから破顔するだろう彼のことなんて、――その様子を思い浮かべただけで高鳴るこの心臓のことなんて、いまこの瞬間の一織の責務には、一切関係のないことだけれど。
ああ、でも。
(あなたの色をまとわせて)
(でも、私の色になんて染められないでいて)
そんなことを口にしてみたいと、ひそやかに思い描いてみるくらいは、きっと、一織ひとりの特権だ。