Our Shinin’ Star - 2/2

 ――うん、そう。ごめんな。やっぱ陸、最後まで保たなくてさ……。
 袖にはけてすぐへたりこんで、したら一織がすっとんでった。陸はスタッフが支えてたんだけど、一織見てもがくみたいに動いて、一織もすぐ陸のこと引き取ってさ。用意してあったベンチに連れてって座らせて、……なんていうんだろ、二人で、お互いのこと支えるように抱き合ってた。
 ぎゅーってしがみつくみたいな、力こめてるのじゃなくて、もっと穏やかな感じだったよ。
 陸がボロボロ泣いてて、一織がずっとその背中を撫でながら、なんか話してた。
 ……うん。わかってる。泣くのも良くないんだろ。でもそういうんじゃなくて、泣いてはいたけどさ、涙だけ止めらんないみたいな感じ……。肩の力抜いて、ゆっくり息しようとしてたように見えた。
 うん、そう。前んときは、陸がもうパニックっていうか、すげぇ苦しそうなのに歌うって言い張って、咳出てんの気力でなんとかしようとして、それで余計に悪くなる、みたいな、完全に悪循環だよな。気持ちは分かるけど、見てるオレらもほんとしんどくてさ。だから最後は無理にでも吸入させて、それでも良くなんなくて、陸が謝りながら泣いて……。
 きのうは全然違った。
 状態が悪いのも全部分かってて、受け入れて、ちょっとでも良くしようってしてたよ。落ち着いてた。
 アンコール、MEZZO”で繋いで、オレらが出て、――そそ、準備してたやつ。やんなくて済むならそれが一番だったけどな……。
 一織だよ。準備できることはぜんぶしようって。陸と、マネージャーと、お医者さんともすげえ話して、いろいろ計画してた。何パターンあったかな。
 もちろん陸の体調もめちゃめちゃ気ぃつけてたけど、この季節ってどうしても陸にはこたえるだろ?
 意識があって、笑顔でいられる限りは絶対にステージに出してやる、だから絶対に一人で無茶するなって、脇で聞いてたオレらも耳タコになるくらい何回も言ってた。
 ステージセッティングオレらでやろうっつったのは大和さん。そのほうが見てる方も心配だけじゃなくて、なんか企画っぽくて面白いだろって。愛ドリんときとかさ、ペンキ塗りまでオレらでやったもん。ちょっと思い出したよ、あれはあれですげぇ楽しかったんだよな。
 一織が陸担いでステージに連れてって、解ミス歌って……。正直さ、声はあんま出てなかった。いつもの陸の歌とは天地の差だよ。本人も悔しかったろうな。
 でもずっと笑ってた。
 おまえの主義とは違うよな、九条。でもあの陸もプロだって、オレは思うんだ。
 陸のファンは、がんばってる陸が好きなんだよ。笑ってる陸が好きなんだ。完璧な出来じゃなくても、陸が笑ってたら、応援して良かったって思える。次に期待して、またいつか、いい歌が聴けたらいいなって思うんだ。
 陸のライブを見る一生に一度のチャンスだったとしても、残念って思うより、会えて良かったって思ってくれるんじゃないかな。仲間内の希望的観測かもしんねえけどさ。
 九条のこと尊敬してるよ。すげえと思う。オレもゼロがずっと憧れだったからわかる。けど、陸みたいなアイドルも、いていいんだ。陸みたいなアイドルにいてほしい人がいるって、信じたい。いや、信じてるんだ。
 オレらのセンターは陸しかいないよ。
 ――一織? 心配してくれてんの? ありがと、優しいな、九条。なんだよ、照れんなよ。
 ずっと笑ってたよ。陸のこと支えて、ずっと笑ってた。おぶって舞台に出て、歌って踊って、いつもの3倍ファンサしてたかな! ぜんぶ歌い終わったらまた陸のことおぶって帰って、あはは、そうそう、あいつらのコンビ好きなファンの子、すっげえ喜んでた!
 そんで袖に戻って、すぐ陸座らせて、なんか褒めてたかな。陸が泣き笑いで抱きついて、へろへろのくせに興奮してわーわー言うから引っぺがして車椅子に座らせて、スタッフさんに頼んで医務室に追い立ててさ……。陸、車椅子押されながら振り返ってめっちゃ手ぇ振ってたっけ。ちょっと面白かった。
 で、陸が見えなくなったら、一織が糸切れた。安心したんだと思う。もうなんか、決壊って感じで、呆然とした顔のまんまだばーって泣いちまってさ。
 もちろん兄ちゃんはすっ飛んでハグしに行きましたよ。
 がんばったなーつって頭撫でてやったら、ガタガタ震えながらしがみついてきて、ガキみたいにわあわあ泣きだした。あの一織がさ。ミューフェスんときだって、あんな泣き方じゃなかった。
 ……っ、わり、思い出したら、ちょっと……。……。
 なあ、九条。頼むよ。一織のこと、あんま責めないでやって。一織がいなきゃ陸があんなギリギリやんないのも事実だけどさ、でも陸がしんどいステージやるたびに一人で凹んでんの、一織なんだ。スタッフさんとかもさ、『えっこんな状態の陸に歌わせんの』って顔する人いるし、一織も人前じゃ平然としたまんまだし……。
 オレが九条にこんな話してるって、一織には内緒にしてくれよ。アイツ、ほんとはおまえにだけは知られたくないはずだから。自分が悪者になれば、憎まれればいいって思ってんだ。うちの弟、そういう奴なの。
 でもオレは一織の兄ちゃんだから、一織のこと庇うよ。九条が陸のこと大事にして、オレらのこと怒るのと一緒。許せないならオレと大和さん殴りに来ていーから。そうそう。いーって、ご遠慮なく。どうせ顔は避けてくれるだろ? なら大丈夫。
 ……うん。
 ……。そっか。
 連絡、遅くなってごめんな。明日には陸も帰って来るから、できれば見舞いに来てやってくれよ。
 うん。……サンキュ。
 おまえもさ、あんまり一人で泣くなよ。胸くらい貸すよ。陸も環も弟みたいなもんだし、もう一人弟増えたって大丈夫。
 ……はは、そっか。頼もしい兄ちゃんら、もういるもんな。
 よかったな、九条。
 おやすみ。またな。

《和泉三月から、九条天への通話》