とびっきりのふたり

「本当に? シャイロック!」
 ムルがいきいきと声を弾ませて、シャイロックが厭そうに顔をしかめる。ああまた始まった、とクロエは眉を下げて苦笑した。今日はUターンして帰ることにならなければいいけれど。
「彼らは本当にお互いが大好きなんだね」
 クロエの隣でラスティカがゆったりと笑った。本当にねえ、と、クロエも頷く。よく喧嘩をする二人だなあ、と思っていたのは最初の頃だけだ。喧嘩の火種を自分が撒いてしまったとクロエが慌てたり落ち込んだりすることも、今はもう、すっかりなくなった。
 シャイロックは年かさの魔法使いの中でもとびきり大人っぽくて、他人を尊重してくれる優しいひとだ。美意識が高くて好き嫌いがはっきりしているけれど、こちらにそれを押しつけてはこない。夢見がちなところのあるクロエの言葉も、いつも笑って受け止めてくれる。
 でもムルは、シャイロックにはいつだってシャイロックらしく、シャイロックの美学の通りに、つんと澄ました手の届かない人でいてほしいみたいだった。きっと、ムルと二人きりでいるシャイロックはそうなんだろう。だから、シャイロックが誰かの言葉に優しく頷いたとたん、眉を跳ね上げる。本当に、シャイロック? きみともあろうひとが、そんなに安易に肯定してしまうの?と。
 そしてシャイロックも、ムルに対してだけは、おおらかに優しい肯定者ではいられない。ムルの思い通りにならないし、ムルに簡単に推し量られない、むずかしいひとであり続けることが、シャイロックにはなにより大切なようだった。
 シャイロックが手厳しい言葉でぴしゃりとやっつけようとするたび、ムルは心底楽しそうに笑うし、ムルがシャイロックの言葉尻をつかまえて疑問を繰り出すたび、シャイロックは高嶺の花の店主の顔を崩して、他の誰にも見せない表情を見せる。
 ふたりの抱く感情の中身は複雑で、クロエには扱いきれないけれど、お互いがお互いのとびっきりなんだということは、もうとっくに知っているのだ。