ラボ理事長とベネットワインの社長の会話

「カルディアシステム?」
「そう! 自分で学習して、自分で選んで、自分で決める! アンドロイドに心を備える、夢の発明だよ。うちの子たちがこっそり開発していたんだって。もう実装個体も世に出てる」
「……つまり、貴方のような?」
「俺やきみみたいなね! システムの本質としては一緒。コードを見たけど中身はだいぶ違うかな。でもコアのところは俺の残した論文を応用してたよ。なかなかスマートだったけど、もう少し圧縮できそう」
「貴方の破棄しなかった論文の、でしょう」
「そういうこと! 二百年か、思ったより早かったかな。法律も急ピッチで整備されていきそうだ。市長の息子が噛んできたからね。カルディアシステムを搭載したアンドロイドに人権が認められる日も近そうだよ」
「ああ、あの綺麗な子。優秀だと聞いてますよ。では、彼が市長になる頃には、私もようやくお役御免ですね。次の貴方が、私が起動する最後の貴方になるんでしょうか」
「どうして? シャイロック」
「人権が認められるのでしょう。フォルモーント・ラボの理事長がかつての学園理事長ムル・ハートの心を移植したアンドロイドだと公表なさればいい。人間に擬態する必要も、老朽化するたびに次の個体を起動する役割を私一人が担う必要もなくなるでしょう。――まったく、マスター・ムルも何を考えていたのだか。自己修復機能と永久機関を貴方にも搭載してくだされば、私の手など最初から要らなかったでしょうに」
「目的が違うからね。きみは維持と安定、俺は学習と発展! それにねシャイロック、きみの手が不要になる日なんて来ないよ。俺ときみの中にあるのは、カルディアシステムに似て非なるものだもの。公表したらみんな混乱しちゃう!」
「やれやれ。まだ貴方に付き合わなければいけないんですか、本当に憎らしいひと。映画のモデルになんてなってしまったから、この容姿も注目を浴びてしまって面倒なんですよ。年をとらないと不自然に思われてしまう。貴方なら他の個体を作ることもできるでしょう。それこそ最新のカルディアシステムを載せればいい。そろそろスクラップにしてくださいませんか」
「わざとやったくせに! 有名人になって厄介者扱いされたかった? かわいいシャイロック、残念だね、きみの外装のカスタマイズ性はとっても拡張されているんだから! ベネットワインの社長業の次はなんにする? フォルモーント・ラボラトリー理事長の美人秘書とかどう?」
「……遠慮しておきます。結婚してそっくりの息子をもうけたことにでもしますよ。この見た目はなかなか気に入っているんです」
「俺も好きだよ! 俺のシャイロックと同じだもの」
「はぁ……。恨みますよ、マスター・ムル。本当に残酷な方」