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三年間、福富寿一と東堂尽八はチームメイトとして過ごした。二年生の夏の終わりからは福富が主将、東堂が副主将として、大所帯である箱根学園自転車競技部の屋台骨をともに担った。
「――行け!! 東堂!」
振り返った福富が呼んだ。
三年生になり迎えたインターハイ、三日目。全ての予想を覆し、一年生である真波山岳と小野田坂道が総合優勝を争う勝負を繰り広げるその後方で、総合三位の集団がいままさに、二つに割れた。
ここまで前で引いてきた福富の横を、東堂は総北の巻島と並びすり抜ける。
「獲れ……!」
「当然だ!!」
福富に叫び返し、東堂は獰猛に笑う。
「そのために、上がってきたのだから!」
福富は、最後にその手で背を押しはしなかった。ただその声で、東堂を鼓舞した。これまでずっと、そうしてきたように。
旗頭と仰いだ男を背後に置き去りに、東堂はすべての力を込めてペダルを踏んだ。隣には巻島の熱。はるか前方には夢を託した若者と、きっと彼と並び立つだろう少年。
ああ、なんと、なんと、幸せなのだろう!
オメガの幸福など要らなかった。これが、これこそが、東堂がもとめた、たったひとつの。
巻島が徐々に遅れていく。三日間の無茶な走りが、最後の最後にとうとうその脚を蝕んだのだろう。もともと、スタミナでは東堂がまさる。
ひとりきり東堂はゴールに向かって駆け上がる。どれだけ踏んでも、優勝争いにはもはや届かない。巻島も遠ざかり、追ってくる可能性は消えた。箱根学園の三位入賞は確定し、それでも東堂は脚を緩めない。
山頂へ、山頂へ、山頂へ!
優勝者を告げるアナウンスが聞こえた。悲鳴と歓声。
一瞬だけ、東堂は苦く笑う。
耳をつんざく観客の応援に混じって、背後からひとつだけ、ペダルの音が聞こえていた。
それが誰のものかなんて、耳より先にこの肉体が、かっと上がる体温が告げている。
それでも脚は止めない、緩めない。
山頂へ、山頂へ、山頂へ、山頂へ――!!
ゴールゲートが見えた。
ハンドルの上に伏せていた身体を起こし、両手を広げ、空を仰いで。
山神と呼ばれた男は、総北高校の優勝に沸くゴールへと、誇り高く飛び込んだ。
そうしてゆるゆるとペダルをまわしながら、ようやく振り向いた。
わずかに間を置いて福富が、ゴールゲートをくぐるのを迎える。
福富の伸ばした握りこぶしに、東堂は自分の右手のこぶしを合わせた。
かれらの三年間の終わりを告げたその体温は、いつかのように、ひどく、熱かった。
