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準優勝という結果を残し、夏は終わった。
主将は泉田に、副主将は黒田に譲られた。シーズンのしめくくり、秋の深まった箱根から伊豆への道を最後に駆け抜けながら、積み上げた三年間の全てを後輩に託して、箱根学園の名をしるしたジャージを脱いだ、――その翌日。
鮮やかな赤や黄色の落ち葉の積もる校庭を歩いていた東堂は、ふと足を止めた。
ゆっくりと振り返る。
「――フク」
「東堂」
あの日と同じように、立っていたのは福富だった。
三年間をかけて飼い慣らした身体のざわめきが、とうに教えてくれていた通りに。
あの日、縋りつくように強く握った自転車のハンドルは、手の中にない。
そんなものはもう要らなかった。ロードバイクはこの心の傍らに、いつだって寄り添っている。
運命に抗うと、かつて決めた。その誓いはいまもなお揺るがない。
けれどいま東堂の目の前にいるのは、運命などというあやふやで暴力的なものに突きつけられた、ろくに知りもしない相手では、もはやない。
そこにいるのは、同じものを、同じ強さで目指し、灼熱の夏も凍える冬も、肩を並べて駆けてきた、かけがえのない大切な仲間の、福富寿一だった。
東堂は笑った。
心のままに、すべてを込めて、なにもごまかさず。
深く見知った鉄面皮がゆるゆると崩れていくさまを、踊り出したいような歓喜に包まれながら見つめる。
「おまえを、」
告げたのは、ふたり、同時だった。
運命のつがいでなく、アルファでもオメガでもなく。
ただのふたりの人間、福富寿一と東堂尽八として。
互いに伸ばした手を、彼らはしっかりとむすびあわせた。
「レモンの味とは大嘘だな。塩辛いぞ」
「塩辛くない誰かのほうが良かったか?」
「いいや? まさか」
くすくすと東堂は笑って、自分よりひとまわり大きな身体を抱きしめる。
「俺はおまえがいいよ、フク」
「ああ」
なめらかな黒髪を梳いて、福富も微笑んだ。
「俺もだ。東堂――」
